2006年1月。
絵本「白いおばけのスー」出版後、私はもう一つの絵本企画に着手した。
サンスター文具株式会社のオリジナルキャラクター「マカマカ」の絵本制作だ。
前年12月、大阪・梅田のビジネスホテルで閃いたストーリーの構想案を手に、私は同社のロビーに居た。
しばらくすると、営業課長Y氏と作者の神尾由利子氏が現れた。
この日、私は神尾氏と初めての対面だった。
快活でよく喋る営業課長Y氏とは対照的に、物静かで礼儀正しい普通のOLさんのような若い女性。なんというか、デザイナーやイラストレーターのイメージとは違って、ごくごく普通のお嬢さん、という感じ。
私は早速、資料を広げて構想案の説明をした。
きっかけは、NHKスペシャルのドキュメンタリー「絶滅から救えるか アムールヒョウ」。
世界中に存在する絶滅危惧種の動物が、主人公マカマカと友達になるというお話。
そして何よりも、主人公・マカマカこそ、絶滅危惧種の動物なのである。
作者・神尾氏が設定した、ぞうの子どもマカマカは、ハワイで生まれたアフリカゾウだ。
そして、マカマカとは、ハワイ語で友達の意味。
マカマカが故郷アフリカへの旅を通して出会う動物たちが、絶滅危惧種の動物であり、絶滅に至った経緯を盛り込む。
絶滅の危機にさらされている理由は120%人間の仕業である。
その事実を子どもたちに伝えたい。
そう。
サンスター文具からの意向、大人の女性向けではなく、未来の大人へのメッセージとして制作したい。
私がここに至った理由も、二人に説明した。
20代の頃から野生動物に興味を抱き、絶滅危惧種の動物の存在を知り、アフリカ・ケニアへ。
サバンナで生きる多くの野生動物たちとの出会いを通して、生きる原点を知った。
私の原点はここにある、と。
あの時の思いが、アムールヒョウとマカマカを結びつけた。
さらには、神尾氏が描く動物たち。
草食動物も肉食動物も、魚も爬虫類も、みな一緒に仲良く存在している。
これこそエデンの園に暮らしていた動物たちの姿である。
神尾氏が描いたイラストには、深くて強いメッセージが込められている。
私は延々と話し続けた。
神尾氏は、静かに聞いていた。
Y課長は言った。
「しかし、それだと最初から全部描かなければいけなくなるでしょ。ちょっと難しいんじゃないのかな。今ある素材で、なんとかならない?」
「う〜ん、現存する素材も使いつつ、やっぱり新たに描きおこしてもらいたいです」
「私、やります!」
神尾氏は、Y課長が何かを言おうとしているのを遮るように言った。
「いやでもさ、勤務中は別の仕事があるでしょ、残業になっちゃうし無理なんじゃないの?」
「大丈夫です。土日に描けばいいし、できます!」
神尾氏の強い意志を感じたY課長は、それ以上何も言わなかった。
無理難題を言ってるのは重々承知だ。
しかし、私は神尾氏が描いたこの動物たちに、命を吹き込みたいと思ったのだ。
あの、ケニアで出会ったサバンナの野生動物たちの命を。
こうして、神尾氏と私、二人三脚の絵本制作が始まったのである。
To be continued…..