I LOVE MY LIFE −猫とROCKと愛の日々−

2022年11月から1年に渡って還暦ブログをほぼ毎日更新、2023年11月からは海外ドラマ「Kommissar REX」そして、REXドラマの🇨🇦版/🇮🇹版のレビュー記事。それ以前は海外ドラマ「Kommissar Rex」全編のレビュー記事です。

Believe   船橋編②

 

2002年、夏。


「見返りにっぽん」の次回作を練っていた私は、一人の芸術家にアポを取ろうとしていた。おもちゃデザイナーの加藤裕三氏である。彼はグリコのおまけデザイナーとしても活躍していた大阪在住の芸術家で、私が業界紙の記者時代に取材した人物だった。

 

*********************

 

遡ること1992年、秋
Hとの結婚が決まった頃、私は玩具業界の記者として取材をしながら、社団法人ホビー協会の会報誌も手がけていた。毎回、巻頭インタビュー記事を連載していて、私はその取材で初めて加藤氏に出会った。


池袋西武百貨店のギャラリーで個展を開催中だった加藤氏に取材のアポを取った。
ギャラリーに行くと、ポツポツと客が入っていて、加藤氏は作品の説明をしていた。

私は彼に挨拶をして、まずは撮影させてもらってからインタビューをすることにした。

木製のオルゴール、石と鉄のオルゴール、木製のカラクリ人形、木製のおもちゃ。大阪人らしいユーモアと、美しいフォルム、自然の素材を元に作られているにもかかわらず、何か新しい物質に見えてくる不思議さ。

 

 

うん? これは…?

 

私は、作品のそばに添えられているメッセージに目を奪われた。

 

「どうぞ、触ってみてください」

 

ほぉ〜、触っていいんだ。私は恐る恐る、壊さないようにと石でできたオルゴールを触ってみた。

 

「上の突起を引っ張るんですよ」

 

加藤氏が、言う。

 

「あ、これね。これを引っ張る… あ!」

 

すると、その突起物にはヒモが繋がっていて、手を離すと優しいオルゴールの音色が響いた。へぇ〜。面白い。ヒモはゆっくりと最初の場所に戻ってオルゴールが止まった。

 

「僕の作品はね、触って動かさないと意味がないんですよ。でも普通は「触らないでください」って書いてあるでしょ。だから、みんな触らないで見てるだけだから、触ってくださいって書いておかないとね」

 

一通り撮影を終えて、インタビューをするために私たちはデパート内のカフェに移動した。テーブルについた途端、加藤氏は手に持っていた袋から、バラバラっと大量の小さなおもちゃをテーブルの上にばらまいた!

 

「わ〜、これ、グリコのおまけですね! あ〜、これ知ってます。懐かしいな〜」


私は、一つひとつを手にとって動かしたり眺めたりして、ニコニコしていた。

加藤氏は、デザインの工程や動かし方の説明を続ける。

それは延々と続いた。

ずっと聞いていたくなる魅力的な話なのに、肝心なインタビューもまとめないと…と思った頃にはすでに1時間。

大阪人のユーモアたっぷりの話をする加藤氏に引き込まれ、時間も忘れてカフェで語り合った。作品のインパクトといい、強烈な印象の人物との初対面だったのである。

 

 

その後、六甲アイランドのギャラリーに会いに行ったり、手紙のやり取りなどして連絡を取っていたのだが、1995年、阪神淡路大震災後、音信不通になり、どうしているだろうかと心の片隅では気になってはいたのだが、忙しさに紛れてそれっきりになっていた。

 

ところが!
「見返りにっぽん」で取材したZEROエンジニアリングの木村信也氏に会った時、俄かに加藤裕三のことを思い出したのである。

なぜって、顔も声も似ていたからである。

こんなことってあるのだろうか?

私は「見返りにっぽん」の制作が一段落をしたら、加藤氏にアポを取って次の企画の相談をしようと決めていた。

 

しかし、時すでに遅し。

加藤氏は、2001年5月5日、50歳の若さで他界した。

加藤氏の作品をホームページにまとめて運営していたK氏に、私はもう一度連絡をしてみた。いったんは断られたが、しつこく連絡して、大阪で直談判することにした。
こうと決めたら、後には引かないのが私の取り柄だ。

こうして加藤裕三の軌跡をたどる旅が、始まったのである。

 

To be continued......