私の原点・30年目のケニア
第4回 アフリカゾウ VS 鉄の塊
私はこのケニア旅行で、どうしても見たい動物がいた。
クロサイだ。
すでに30年前でケニアでの生息数が2万頭から400頭に激減、現在もレッドリストCR(近絶滅種)に分類されている。
私は、サファリ初日からクロサイに会いたいと、Mr.Mishackにしつこく伝えていたので、彼も何とかしてクロサイを見つけようと必死だった。しかし当時、マサイマラ国立保護区には数十頭という現状、会えれば「奇跡」と言われていた。
その日、Mr.Mishackは奇跡を求めて、いわゆるけもの道に入り込んだ。
鬱蒼とした樹々、サファリカーの両サイドが枝で擦れて、キィィィ〜〜と音を出している。どんどん道が狭くなる。前方は木の枝ばかりになり、くねくねと曲がりくねって、目の前の状況が確認できない。
いつもはおしゃべりで快活なMr.Mishackも、この時ばかりは、黙りこくっていた。
私はと言えば、『これはかなりヤバい』と、気が気ではなかった。
案の定……。
私たちの目の前に、突如、アフリカゾウの群れが現れたのだ!
!!!!!!えっ? ちょっと!
どこから来たの!
大人のゾウが3頭、子どもが2頭くらい、赤ちゃんゾウが1頭。(だったと思う。あまりの衝撃で記憶が曖昧…)
Mr.Mishackはエンジンを切って、だまって目の前のゾウを見つめる…
突然!
先頭のリーダーゾウが、耳を大きく横に広げ、鼻を高々と上げ、
パオーーーーーーーー!
パオーーーーーーーーー!
パオーーーーーー!
と、もの凄い声で吠えた!
さらに、片足を上げ、
ズドン!ズドン!
ズドン!ズドン!
と、地面を踏み鳴らしている!
こだまする巨大な声。
地響きで揺れるサファリカー。
心臓がバクバクして金縛りになる。
アフリカゾウが怒っている。
私たち人間に怒っている。
けもの道に勝手に入り込んだ、人間に怒っている!
家族を守るための威嚇。
リーダーはサファリカーの真ん前に立ち塞がって、私たちを睨みつけていた。
Mr.Mishackは、静かにエンジンをかけ、ゆっくりゆっくり、ゆっくりゆっくりと、バックする。
リーダーは、サファリカーがバックすると同時に、フロントガラスに顔を押し付けるようにして、前進する。
後から子どもたち家族が続く。
ようやく、ゾウとサファリカーがすれ違える道幅になったところで、Mr.Mishackはエンジンを切った。
アフリカゾウの群れは、サファリカーの横を通り過ぎていく。
私はガラス越しに超接近したアフリカゾウたちの顔を見た。
ゾウたちは、私たちに目もくれず、ゆっくりと通り過ぎた。
カメラを持つ手が震えて、シャッターを切ることが出来なかった。
怖かった…。
冒頭の写真は、だいぶ遠くに離れた段階で、望遠で撮影したリーダーだ。
こちらは若いアフリカゾウ。
サバンナでは、サファリカーは単なる鉄の塊だ。
そこで精一杯生きている彼らとは、同じ舞台には立てない。
だから彼らはサファリカーを無視するし、脅威とも思ってない。
ましてや、鉄の塊の中にいる人間なんか、どうでもいい。
だがあの日、私たちはアフリカゾウと同じ舞台に立ってしまったのだ。
子どもたちを守るために、必死に威嚇をするリーダーの凄み。命を張って生きる彼らと、人間は同じ舞台に立っちゃいけなかったのに、偶然迷い込んでしまったことで、私は人間の愚かさを目の当たりにしたのだ。
人間は、なんてちっぽけな生き物なんだろう。
鉄の塊から放り出されたら、数時間ももたない命。
人間なんて、塵みたいなもんだ
そんなささやきが、アフリカゾウたちから聞こえたような気がした…。
To be continued…