アムールヒョウを救え!
2006年10月。
私は「マカマカ南極へ行く」を出版後、書店の他に全国の動物園、水族館にも新刊リリースを郵送、電話営業もした。
横須賀から近い、八景島シーパラダイス、京急油壺マリンパーク(2021年6月に閉館。寂しい)には、HONDA FUSIONで30分の距離、直接営業に何度も行った。絵本と同時にサンスター文具のマカマカグッズの営業もして、マカマカコーナーとして展開してくれたのである。やはり営業は顔を見て話すのが一番だね。
その頃、作曲家の巨勢典子氏から、FoE Japanという非営利団体が主催のイベントに参加する、と連絡を受けた。*巨勢典子氏は、マカマカロシアへ行くの付録の音楽CDの楽曲提供者である*
このイベントは、東京有楽町で開催する、アムールヒョウ写真展「アムールヒョウに迫る危機~シベリアー太平洋パイプライン~」というもの。NHKの小林達也氏も参加して、NHKスペシャル「絶滅から救えるかアムールヒョウ」の上映と、巨勢氏はNHKスペシャルの劇伴奏曲の演奏をする。
そこで巨勢氏が提案したのは「マカマカロシアへ行く」の朗読だ。
NHKスペシャルで登場したアムールヒョウのプザンと絵本のプザンが共演するという、初の試みだ!
ーなんという素晴らしいアイデア!
私は早速、準備に入った。
絵本の朗読は、巨勢氏と交流のある舞台女優の岡田静氏が担当。
絵本のイラストは映像化して、巨勢氏のピアノとコラボレーションする。
私は、絵本マカマカシリーズでの初イベント開催に、心が高鳴った。
テーマは非常に深刻であり、絵本の朗読がどのような作用をするのか、楽しみだった。
2006年当時、東シベリア・太平洋石油パイプライン計画が進められていた。
この計画は、全長4188kmもあるパイプラインがアムールヒョウの生息地やその近くを通り、アムールヒョウをさらなるの絶滅の危機へと追いやる。そしてパイプライン建設に、日本政府は多額の資金を提供することが報じられていた。
ロシアのアムールヒョウの絶滅の危機が、日本人に関係があることを広く伝えるためのイベントだったのだ。
アムールヒョウ? ロシア?
それって日本とどう関係があるの?
大半の日本人は、そう考えていただろう。
しかし、そうではない。
アムールヒョウが棲むタイガの森は、新潟から飛行機でウラジオストクまで1時間45分、その近くである。
決して遠くはない。むしろ密接に関係しているのだ。
パイプラインの問題は、FoE Japanをはじめ、日本とロシアの団体の努力により、別ルートでの建設が決定。当初の予定地でアムールヒョウ生息地に隣接するペレボズナヤ湾から、東へ100km以上離れたコズミノ湾へと変更されたのである。
アムールヒョウの生息地からコースをずれた形で、パイプライン建設工事の脅威は終息した。
しかし当時のパイプライン建設問題は、アムールヒョウにとって甚大な影響が出ることが予測され、切羽詰まったイベントだったのだ。
2006年10月2日。
10月14日まで開催される初日の夜、巨勢氏のピアノ演奏と「マカマカロシアへ行く」の朗読が行われた。
それほど多くの人が入る会場ではなかったが、ステージの前に50脚ほどのパイプ椅子をならべた。夜の開催だったからか大人の観客がほとんどで、数人の小さな子どもたちもいた。
スクリーンに大きく映し出される、マカマカとアムールヒョウのプザン。
岡田氏が朗読するプザンの言葉、そして、その言葉に乗せて歌う。
すると…
会場から啜り泣く声が聞こえてきた…。
そして、女の子の泣き声。
「プザンが死んじゃう! プザン、かわいそう」
鼻をすすりながら、泣いている。
その声に反応するように、大人たちも泣いている。
私も泣いた。
当時、あの会場に居た人たちは、あの子の悲痛な声を忘れてはいないだろう。
人間のエゴで、野生動物の命を蔑ろにしていいはずがない、そう確信したイベントだったのだ。
イベントの詳細はここに掲載されているので興味のある方は、見てね!
その後の私は、このイベントに大きく影響されたことは言うまでもない。
イベント企画にのめり込んでいく、一つのきっかけとなった出来事だったのである…。
To be continued…..