2005年12月。
『親子で学ぶ防犯絵本 白いおばけのスー』(HILOKO作・セコム株式会社監修 駒草出版)が書店に並んだ。
セキュリティ大手企業が監修した絵本、また親子で学ぶために2冊セットにしたことなどが、大きな話題となり、発売前から取材依頼が殺到した。
新聞はもちろん、テレビ、ラジオなど、さらには雑誌の特集記事も組まれた。
監修をしたセコム株式会社の広告宣伝力に助けられて、弱小出版社だった駒草出版社には、トーハン、日販など取次の営業マンが配本数の確保に訪れるなど手のひらを返したような取次の対応に、私は半ば呆れていた。
取次の連中は、本当にこの本がどんな本だかわかっているのか?
セコム株式会社という冠がついただけで、これまで無視され続けてきた出版社に頭を下げる取次の営業マンの節操のなさに、嫌気がさした。
私はこの頃から、出版業界のシステムの壁に少しずつ背を向け始めていた。
この業界にいると魂が腐ってしまいそうな、そんなことさえ感じていた。
しかし、自分が編集担当した本が、書店で平置きにしてもらえることの嬉しさは何にも変えることはできない。
「白いおばけのスー」は大手書店ではほとんどが平置きにして積んである。
棚に立てかけられ背表紙しか見えない本よりも、数倍売れる確率が高い、もちろんだ。
そして、新聞に大きく取り扱われることで、さらに火がつく。
書店でもタイアップイベントを組んで、客を呼び込みたいはず。
私はまず、HILOKOの故郷である大阪の書店にイベントの営業をかけた。
大阪でのHILOKOの知名度は絶大である。
大手書店でのサイン会を企画すれば、長蛇の列ができるはず、そう思ったのだ。
その思惑は当たった。
梅田紀伊國屋書店でのサイン会に、わんさと人が訪れたのである。
「白いおばけのスー」だけではなく、以前に出版したポストカードブックや、ポスとカードの販売も行った。
HILOKOのサインは丁寧にイラストも描くので、ファンも大喜びなのだ。
こうして、盛況のうち終了したサイン会の後片付けをして、HILOKOは実家へ、私は梅田のビジネスホテルへ向かった。
出版まで怒涛の毎日だった。
大型自動二輪免許の教習所通いと同時進行だったこともあるが、もう1冊の絵本企画を抱えていたからだ。
しかし、一向にストーリーがまとまらない。
話をもらってから、すでに3ヶ月は経過していた。
この企画は外部から依頼され、私がストーリーを執筆する段取りだったのだ。
ところが、全くテーマが思い浮かばない。
どうしたものか…。
スーの出版も終わったことだし、そろそろ形にしないとマズイよね…。
私はホテルの部屋で、コンビニで買ったおにぎりと味噌汁にお湯を入れて、よっこいしょとソファに座った。
おもむろにテレビを付けて、NHKのニュースでも見るか…とリモコンを操作した。
夜9時を回ったところだった。
9時のニュースを見ようと思ったのにテレビの画面は、なんだか暗い森の中で動くヒョウのような動物が映し出されていた。
バックに流れるピアノの曲があまりにも美しく、まるでこの暗い森の中にいるようだ。
私は、おにぎりを食べるのも忘れて、この暗い森の中で動く2匹のヒョウのような動物を凝視した。
ようやく番組のタイトルが映しだされた。
絶滅から救えるか アムールヒョウ
〜ロシア沿海地方の森〜
これ、アムールヒョウっていうのか?
初めて知った。
ヒョウって…
こんな雪深いところで、絶滅するかもしれないなんて…。
テレビの画面を見ながら、私の頭の中に閃いたものがあった。
そう、ケニア・サバンナの風景だった。
梅田のビジネスホテルで、なんとなくスイッチを入れたテレビ。
そこには、私が探していたものが突如現れた瞬間だった。
To be continued ……