I LOVE MY LIFE −猫とROCKと愛の日々−

2022年11月から1年に渡って還暦ブログをほぼ毎日更新、2023年11月からは海外ドラマ「Kommissar REX」そして、REXドラマの🇨🇦版/🇮🇹版のレビュー記事。それ以前は海外ドラマ「Kommissar Rex」全編のレビュー記事です。

Crime of Love 大宮編 15 最終話

大宮のマンションの玄関に飾っていた特大サイズのLennyのポスター。みつあかの立ち位置が絶妙でお気に入りの写真だ

 

結婚以来、Hの実家から大宮は近かったので、義父が仕事帰りによく遊びにきた。

 

「ユカちゃん、そろそろ…どうなの?」

 

と、顔を見るたびに義父は言う。

そのたびに、私は笑ってごまかしてはいたが、義父にしてみれば、長男の孫の顔を早く見たいという心情は理解できた。

私とHは結婚を決めた時に、子どもは作らないことで意見が一致していた。

なぜか。

二人で創造的な仕事をして、有意義な時間を過ごしたかったからだ。

そして二人とも子どもが苦手だった。

しかし、子どもについての議論をしたこともなく、お互いにわかり合っていると思い込んでいただけなのだ。

私たちは、音楽も映画の趣味も同じ、社会に対して怒ることも同じ、起業した時も同じ方向を向いていた。いつも一緒にいるだけで幸せだった。

二人は融合してしまって、一つの身体、一つの精神になっていて、今さら何を確認することもなく、あうんの呼吸で生きている、そう思っていた。

 


私はある日、何気ない雰囲気でこう言った。

 

「高齢出産って、初産の場合35歳からなんだって。私33だしね。そろそろ子ども作るってどうかな」

 

私は、何気ない雰囲気を装ってはいたが、明らかにオドオドしていた。

 

「はぁ?何言ってんの?」

 

Hは、驚きを隠せない、信じられない、そんな顔をして私を見た。

 

「だからさ、高齢出産だと障害がある子が産まれたり、テレビで見たんだよね。大変らしいのよ。だからそうならないうちにって」

 

「あのさ、子どもはいらないって、お互いその方がいいって納得してたじゃない。何を今さら…。」

 

私はもうそれ以上、何も言えなくなってしまった。

気まずい雰囲気がさらに空気を重くして、私は黙ってリビングを出た。

私は、16歳のあの時以来、自分が母親になる姿など、想像したこともなかった。

17歳のNが望んだ、二人で子どもを育てて、幸せな家族を作る夢。

その夢が壊れてしまってからは、家族という幻想に封印したのだ。

 

neocats.hatenablog.com

 

 

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「Hのお母様とお父様って、私が描いてた理想の親なんだよね。妹さんも美人で可愛いし。理想的な家族。一緒にいると楽しいし、ご両親も私のことをホントの娘みたいって言ってくれるのよ」

 

20代の頃からのバンドの友人Yとランチをしている時に、私はそんなことを話した。

 

「Hと結婚した理由って、もしかしたらHの家族の仲間に入れて欲しかっただけかもしれないね」

 

Yは、私の話を聞いて、思わず泣いた。

 

え?なんで。泣かないでよ…」

 

Yは、私の親のことや、子どもの頃から家族が崩壊していたことをよく知っていたから、私がどれだけ幸せな家族が欲しかったかを瞬時に理解した。

私は、『本当の意味』での家族をHと一緒に作りたい、だから子どもが欲しいと思ったのかもしれない。それは、私の子どもの頃からの家族への歪んだ切望とでも言うのか、子どもを産んでもっと強固な家族を作りたい、崩壊寸前だった私とHの関係性を修復したい、そんな浅はかな考えだったのかもしれない。

でも、これだけは言える。

他の誰でもいいわけではなく、Hの子どもが欲しい、そう思ったのだ。

そしてそれは、これまでの人生を通じて、N以来、Hだけだった。

 

今では何が理由で、傷つけあったのか、思い出せない。記憶に残っていない。

ただ、幸せだった時のことだけが鮮やかに蘇るだけだ。

2人で企画したライブハウス結婚式。

ROCKバンドでステージに立った。

ケニア旅行で遭遇した、あのライオンやアフリカゾウたち。

イベントで訪れた、たくさんの街。

震災前の神戸、大阪、有馬温泉

Hの家族と行った温泉旅行。

そして、

BOSS失踪で苦しんだ日々。

Hと猫たちと大宮のマンション。

 

今も忘れない。

私は人生で一番幸せな時を、

Hと一緒に大宮で過ごしたのだ。


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数年前に観た映画のワンシーンに、幸せだった頃の二人が重なった。

映画の中に私たちが居た…。

 


映画「アリー/スター誕生」

Always remember us this way


www.youtube.com

 

 

1996年8月末。

私は猫5匹と共に、

大宮に別れを告げた…。

 

Crime of Love 大宮編 (完)