いよいよ人生中盤に入り、第5シリーズに突入!
タイトルはLenny Kravitzの曲だ。
私はここから数年間、危ういThin iceを歩いていくことになる…。
1996年夏、結婚生活が破綻、再び人間1人+猫の生活に戻り、私は中野坂上のワンルームマンションに引越した。
ここに至るまでの顛末を、改めて記録しておこう。
1996年8月初旬、NYから戻ってきた私は、子どもが欲しいという話をHに思いっきり拒否され、頭の中は「離婚」の2文字しかなかった。
私とHは朝っぱらから夜の8時まで、言いたい放題言い合った。
これまでの不満が爆発して、次から次へと罵倒の嵐。
そしてもうこれ以上ないだろう、全てを出し切った感のある夜8時過ぎ。
私は切り出した。
私「もう離婚しか考えられない…そうだよね?」
H「俺は、離婚したくない!」
私「え?何でよ。私に不満だらけじゃないのさ!」
H「俺は、愛しているから!」
私「は?……」
H「もう少し時間が欲しい」
私「…時間って、どういう意味よ」
H「お互いに一度離れて冷静に考えて、離婚を決めるのはその後でもいいと思う」
私「……」
H「別居して、冷静になって考えたい。一緒にいるから見えないこともあるかもしれないから」
私はHの言うことも一理あると考え、同意した。
しかし、気がかりなことがあった。
BOSSのことだ。
BOSSはHのことが大好きで、HもBOSSにベッタリである。
「BOSSだけ置いていこうか?」
と、私は言った。
「いいよ、別に。BOSSだって一人になったら寂しいだろうし」
確かにこれまでずっとみんなと暮らしてきたBOSSだから、1匹だけになったら寂しいに決まってる。
うしろ髪を引かれるような気持ちで、私は5匹を連れて引っ越したのだ。
引っ越しの日、Hは外出した。
BOSSと別れるのが辛かったに違いない。
そして、別居という形で、私は中野坂上に引っ越して来たわけだ。
そこは西新宿まで歩いていける距離、高層ビル群が目の前なのに、ぽっかりとそこだけが取り残されたような下町だった。凝ったデザインのマンションで私の部屋はワンルーム。狭い部屋だったが居心地のいい部屋だった。
中庭が美しくデザインされて広かったので、私はある程度慣れたら、猫たちを自由に外で遊ばせようと思った。
幸い、マンションは狭い路地に囲まれていて、車を飛ばす人もいないし、むしろ自転車が多かったくらいだ。
猫たちの遊び場を確保できたので、ワンルームでも大丈夫と思ったのだ。
しばらくして、大宮のマンションの鍵をHに返しに行ったときのこと。
チャイムを押して待っていると、Hが、トランクス1枚で出て来たのだ。
「どうしたのよ、その体!」
「服が着られないんだよ…」
「……!」
Hの身体中が、湿疹で真っ赤に爛れていたのだ。
胸、背中、太もも、ふくらはぎ、腕、あらゆるところが湿疹で真っ赤だ。
痛々しくて、見ていられなかった。
Hは、思春期の頃、原因不明の皮膚炎にかかり、やっとの思いで治療した経験がある。
これまでずっと発症していなかったのに、久しぶりに出たというのだ。
布が擦れるだけで痛いから、家の中ではトランクスだけ履いて過ごしているのだ。
Hのストレスが、ここまで酷いとは思わなかった。ずっとストレス続きだったのに、最愛のBOSSがいなくなり、平常心を装っていても、身体は正直だったのだろう。
私はHのあの姿を見て、ダメージを受けていない自分が、ひどい人間に思えて落ち込んだ。
なんて薄情な人間なんだろう。
どうして、もっと労わってあげられなかったのだろう。
そしてBOSSも、同じようにダメージを受けていたのだ…。
1日中、ぼんやりとベッドの枕の上で座っているだけ。
ご飯とトイレ以外は、全く動かず。
死んだような目で、にゃーとも言わなくなった。
別居したことを、BOSSに責められているようで悲しくて。
他の4匹はそれなりに、新しい部屋で楽しんでいる。
特にみつ子&みつあか親子は、はしゃぎっぱなし。
だけど、BOSSだけが取り残されたように、無表情で寝ているだけの毎日。
ある日、BOSSの姿が見えない。
マンションの周辺を探しても、いないのだ!
また?
まさか、またなの?
私は目の前が真っ暗になった…。
To be continued…..