1991年2月、夜。
私は電話帳で動物病院を必死に探していた。
BOSSとDONのかかりつけの病院は、渋谷のダクタリ大橋動物病院だったが、1時間半もかけて行く余裕はない。一刻も早く病院に連れて行かなければ! しかも微妙な時間だ。開いてる病院が近くにあるかどうか…。
何軒か電話をして、ようやく診察してくれる病院が見つかった。
私はBOSSとDONが騒がないようにバスルームに閉じ込めておいた猫をキャリーに入れて、マンションを出た。大通りまで急いで歩いてタクシーをつかまえた。
「どちらまで?」
「奥戸のM動物病院まで急いでください!」
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私が住んでいた地域はマンションなどの集合住宅が多く、そばに大きな公園があった。そこをテリトリーにする猫たちと、飼い猫たちが集う公園でもあった。
そこで、こじんまりした人懐っこいサビ柄の猫を見かけた時、BOSSのママのタヌキにそっくり! なんとなく親近感がわいて、カリカリをあげるようになった。
サビ猫は次第にうちのマンションの駐車場や自転車置き場をテリトリーにするようになり、仲良しのオスの茶トラと一緒に車の上で日向ぼっこしたりして、マンションの住人みんなで可愛がっていた。
そしてこの日、いつもだったら私が仕事から帰ると自転車置き場から「にゃーん、にゃーん(おかえり、おかえり!)」と大きな声で元気良く走ってくるサビ猫が、居ない。
どうしたのか…。
不審に思いながら玄関ドアを開けようとした時、ドア付近の生垣から「にゃーん」と細い声がした。ガサゴソと生垣から顔を出すサビ猫。
「ターちゃん! どうしたの?」
*この頃私はターちゃんと呼んでいた。
サビ猫は生垣からびっこを引きながら出てきたのだ!
!!!!ケガ?
私はサビ猫をゆっくり抱き上げて、さらに驚いた!
左脚がダラーんと異様に伸びてるのだ!
ナニ?
どうなってんの?この脚!
私は心臓が飛び出るほどにおどろいた。こんな状態の脚を見たことなく、とにかく異様なのだ!
病院、病院、病院…….
私は呪文を唱えるように繰り返して、サビ猫を抱えて部屋に帰った….
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M動物病院の診察時間はすでに過ぎていたが、先生と男性の看護師さんは、私が着くのを待って居てくれた。
先生はすぐにレントゲンの準備をした。
「この先生、大丈夫かな…」
私はTSUNの動物病院初体験で苦い経験をした。だから初めての病院は心配でたまらない。
しかもだ!
この先生の様子ったら、インパクト強すぎて忘れられない。
パンチパーマ、派手なゴールドのネックレス、ローレックスの時計…、ランニングシャツをわざわざ見せるように白衣の前をはだけてる……ちょっとヤクザ風。
さらに看護師の男性ときたら、なーんか暗い感じで無愛想。動物病院っぽくない。
大丈夫かな…。
そんなことを考えてるうちに、レントゲンが終わり、画像を見てあの異様な脚の状態に納得がいった。
見事にスパーンと2箇所折れてるのだ。1本の骨が3本になり、しかも折れた先端が鋭利に尖った状態。
「複雑骨折だね。どうします? 野良猫だから、お姉さんが面倒見る義理はないし、でも放っておけば骨が中で刺さって化膿して死ぬ可能性は高い。折れた箇所が1箇所なら添木で治療もできたけど…」
「先生、手術費どのくらいになりますか?」
「うーん、そうね、手術と最低2週間は入院、大体16万ってとこかな」
「16万!」
その頃、私は編プロの安月給でなんとか生活してた。
16万円を捻り出すのは、到底無理…。どうしよう…
To be continued…