2度のセカンドオピニオン
元気いっぱいに走ったりジャンプしたり、いつも明るいLANAの表情に翳りが見えたのは2002年夏頃だった。
加藤裕三の書籍企画で、大阪へ行ったり来たりで忙しく、LANAの変化に気づいてあげられなかった。
LANAはすでに推定12歳になっていたから、高齢の域に入ったのだ。
新小岩で複雑骨折をして、下町の名医・ヤクザ先生の治療で復活してからは、大きな病気もケガもしなかった。
手のかからない子で、いつでも元気、病気とは無縁だと思い込んでいた。
最初に行った病院は、何となく信用できない高齢の医者だった。
血液検査、レントゲン、尿検査など、とりあえず検査をしてから結果を待つことになった。1週間後の検査結果からは、何も見つからず、食物アレルギーの可能性があるので、処方食と投薬治療で2週間。しかしLANAの容態は変わらず。
別の病院に行ってみよう。
その頃、開業したばかりのきれいな動物病院を近所に見つけて行ってみたのである。外観も美しく、院長先生は若い女医だった。
最初に行った病院の検査結果を元に、再検査をすることに。
北海道大学獣医科卒、というのが何となく信用できそうな感じで、この先生に期待したのだが…。
どうも、この病院は犬の患者に重点を置いているような感じがあった。
ロビーには犬のおやつやサンプル、犬の写真などがいっぱい貼ってあり、猫に関するものがないのだ。
ここ、大丈夫かな…。
1週間後、やはり検査結果では何も出ない。食物アレルギーの処方食と投薬治療の2週間。前の医者と同じ診察だった。
しかし、一向に改善しないことを訴えると、女医は言った。
「では、東大病院に紹介状を書きますから、そこで一度診てもらってください」
「え? 東大病院って、東京のですか?」
「はい。しっかり検査してもらった方がいいと思いますし」
「え? だって、ここから東京まですごく遠いし、どうやって行けって言うんですか?」
「車でも、電車でも、行けるでしょ?」
「LANAは具合悪いんですよ。そんな遠くまで行くこと自体、負担になるじゃないですか」
「もっと遠くに住んでる人でも、東大病院に通ってる人はいくらでもいますよ」
この女医は、何を言いたいのか?
「要するにLANAの治療を放棄するってことですか。東大病院に紹介状って…。もう結構です!」
私は泣きながら、罵詈雑言を叩きつけて、病院から出た。
私は、この時のことを思い出すだけで、ヘドが出るほど気分が悪くなる。
あの女医の顔はすっかり忘れてしまったが、冷たい態度はしっかり覚えている。
確かに方向性は間違っていない。自分じゃ埒があかないから、高度な技術を持つ大きな病院に回す。しかし、この女医の態度に問題がある。患者に寄り添う精神が欠落しているのだ。
行ってみなければ、いい医者かどうかなんてわからない。
でも、こんなことしてるうちに、LANAは日に日に体調が悪くなってる。
すでに季節は、秋になっていた。
加藤裕三の企画も佳境に入り、帰宅するのも夜の11時になる日が増えた。
会社からの帰り道、Fusionで走りながらLANAのことをぼんやりと考える。
赤信号で止まって溜息をつきながら、ふと周囲を見回した。
ゾウのイラストに赤い十字のマーク…。
森下…動物…病院…?
こんなところに動物病院あったっけ?
そこは、私の家からFusionで走れば10分もかからない。
自転車だったら、20分で行けるか?
毎日走っていた道なのに、ちっとも気づかなかった!
このゾウのイラスト、ダクタリ動物病院みたい。
小鳥からゾウまでって。
ここだったら、自転車の後ろに乗せて連れていける!
私は、ゾウのマークの動物病院に最後の期待をかけたのだった…。
To be continued......