本編では紹介しきれなかったうちの子たちのエピソードを、このコラムで書いているが、今日は番外編。
吉祥寺の家で、5匹と仲良しだった、野良のトラちゃんのエピソード🐯
吉祥寺に引っ越して、まだ5匹揃っていた頃の話。
いつからか、オスの茶トラ猫がうちの縁側でお昼寝するようになった。
気の弱そうな優しそうな顔つきで、おとなしく縁側でゴロゴロしている。
うちの5匹はというと、いたって寛大。威嚇したり追っ払ったりしないのである。
お嬢DONでさえ、フレンドリーな態度で接している。
BOSSやDONが、トラちゃんとある一定の距離を保ちつつ縁側で寝そべったりしていることもある。
うちはいつも引戸を少し開けていたのだが、トラちゃんは家の中には入ろうとしなかった。その謙虚な態度が5匹に受け入れられたのかもしれない。
トラちゃんのスケジュールは、大体午前中に来て、午後になるとどこかに行く、という毎日だったと思う。
縁側にご飯を置いておくと食べていく。おとなしい性格だったので、きっとほかの家でも優しくしてもらっていたのだろう。
うちはすでに5匹もいたし、これ以上増やす訳にはいかないと思っていたので、毎日通ってくるトラちゃんを見ると、悩ましい気持ちだった。
5匹はトラちゃんのことを受け入れてたし、トラちゃんもうちの子になりたいのではないのかな、と。
梅雨に入る前くらいの6月のある日。
トラちゃんが、真新しくてきれいなグリーンの首輪をつけてうちに来た。
それは、燦然と光り輝いて見えた。つまりはトラちゃんが意気揚々としていたからだ。
そして、いつものように縁側でおすわりをしている。
「あれ、トラちゃん! キレイな首輪だね。誰かのお家の子になったの?」
私はトラちゃんに話しかける。
「あーん」
トラちゃんは、にゃーんではなく、ちょっとハスキーな声で『あーん』と言う猫だった。「そうだよ」とでも言うように。
そうか、やっとお家がみつかったんだね。良かった良かった。
お家の子になりたくて、毎日いろんなお家に通って、やっと見つかったんだね。
そのグリーンの首輪は、センスの良い高価な感じの首輪だったから、きっとトラちゃんを大事にしてくれる人だろうと想像できて、私もなんだか嬉しくなったものだ。
そして。
その翌日から、トラちゃんはパッタリとうちに来なくなった。
グリーンの首輪をした日からトラちゃんは姿を消した。
野良としての生活が終わったということだ。
あの日、トラちゃんは、私と猫たちに首輪を付けた姿を見せに来て、さよならを言いに来たのだ。
私は、トラちゃんに会えなくなったことが少し寂しかったけれど、頻繁に外出していたLANAやみつ子は、もしかしたらトラちゃんの家を知っていたかもしれないね。猫たちのネットワークは、人間が知らないところで、繋がっているから。
時々、トラちゃんの家に行って姿を確認していたかもしれない。
トラちゃんの写真はこの時に撮影したものしかないけれど、気の弱そうな表情がなんとも言えず可愛くて撮ったのだ。あーんというハスキーな声で鳴いている姿。
お嬢DONが、唯一認めた野良のトラちゃん。
今頃、うちの子たちと再会を果たしていることだろう。