武勇伝その1
猫がテーマのコラムの第2回、今日は次男BOSSのお話。
BOSSという猫。
変わった猫だった。
Cats’n’Rock 新小岩編のLANA子育ての記事でも紹介したが、猫らしくない猫だったな。
BOSSは、麻布の赤羽橋で生まれた超都会っ子だ。
猫好きの居酒屋で大事に育てられ、BOSSの両親(シロくんとタヌキ)、兄弟(トラ、クロ)と共に、居酒屋で3ヶ月間暮らした。愛情に恵まれた坊ちゃんだ。
三つ子の魂百までとはよく言ったもので、大らかで純真そのもの、天使のような猫だった。猫や人間を区別することなく、誰にでも友好的、誰にでも愛された。
私はBOSSを自慢したい衝動に駆られたのだろう。
BOSSがまだ6か月くらいの子猫のとき、バイト先の六本木ジャズバーのお花見会に連れて行ったのである。
場所は代々木公園。
私はBOSSを籐籠に入れてお弁当も持参。
だだっ広い芝生の上で、籐籠を開けてみんなに見せた。
子犬のように、みんなと戯れて遊んでくれると思ったのだ。
わぁーかわいい❤️
見ず知らずの人間たちに、覗き込まれたBOSSは生きた心地がしなかったはず。
籠を開けた途端に、BOSSは一目散に走り出した!
尻尾を下げて、匍匐前進をするように、全速力で森の中へ走り去ってしまったのである!
私は動揺した。
しかし、一緒にいた同僚たちは、BOSSが走り去る姿を見て、大声で笑った。
私は、同僚たちの手前、花見を抜け出してBOSSを探しにいくことを躊躇した。
花見で盛り上がってるところに、水を差すような気になったからである。
本来ならもっと早く探しにいくべきだったのに。
私は泣きそうだった。
そうだ!まずは、交番だ!
「あの、白くてこのくらいの子猫なんです、1時間くらい前に迷子になって」
「ああ、そう。まず難しいね。カラスに襲われて、結構死んでるんだよ。ほら、猫の目はビー玉にみたいにキラキラしてるでしょ。カラスはキラキラしたものが好きで、猫の目を狙うんだよね。このあたりの野良猫も結構やられてるんだよ」
は?カラス?
え……。カラスにやられるって。
そんな…。
私はますます不安になり、泣きそうになる。
ボス〜ボス〜ボス君〜。
私は大声で叫びながら、森の中、生垣の下、山の斜面に分け入ったりして必死で探した。
あ、ベンチに座ったホームレスのような男性がいる。聞いてみよう!
「あの、このくらいの小さい白い猫で、青い首輪してるんです。見ませんでしたか?」
「いや、この辺には野良猫はたくさんいるけど、白い猫は見てないな」
私は、代々木公園をくまなく探して、ほぼ1周した。
何時間かかったのか。そろそろ暮れかかってきていたから、3時間くらいは探していたのだろうか。
やがて、あのホームレスのおじさんがいるところに戻ってきた時のことだ。
「お姉さん、お姉さん! いたよ、いた! 野良猫たちと一緒にご飯を食べてさ、みんなと一緒にあっちの方へ行ったんだよ。お姉さんが帰ってくるの、ずっと待ってたんだよ」
「え〜〜〜〜! 野良猫と一緒にあっちへ?」
私はBOSSのために持ってきたカリカリご飯を入れたお茶碗を見た。すっかり食べてある!
ボス、ボス、どこへ行っちゃったんだよ!
私はおじさんがあっちへ行ったという方に走り出した。
すると…。
遠くに、野良猫の集団、5匹くらい。
その中に一点、白く動くものが見えた!
ボス〜〜〜〜、
ボスく〜〜〜〜ん!
私の叫びに、その白いものがピタリと止まった。
ボス〜〜〜〜!
にゃ〜〜ん!
BOSSだ! 私にむかって、一心不乱に走ってくる!
にゃ〜〜ん!
BOSSは私に甘えてすりすりとする。
よかったよかった。
私は大声で泣いた。
おじさんがそばにきて
「よかったね。俺ひとりじゃどうしようもできないからさ、よかったよ」
BOSSは、ふっと野良猫たちの方に振り返った。
野良猫たちは、遠く離れたところからこちらを見ていた。
BOSSは、野良猫たちに向かって
にゃっ!
と一言鳴いて、籐籠の中に入った。
これは作り話でも何でもない。ノンフィクションである。
猫同士の会話では声を出さないというのは知っている。
だがあの時、確かにBOSSは、野良猫たちに「またね!」とでも言うように、「にゃっ!」と言った。
野良猫たちと一緒に歩いていたBOSS。
ほんの数時間で、あの野良猫たちとどうやって仲間になったんだろう。
信じられない話。
でも本当の話である。
BOSS。
お前はどこから来たの?
私に何かを教えるために来たの?
天使のような猫だったね、BOSS✨