青春時代の記憶は驚くほど鮮明だ。まるで映画のシーンを切り取ったように。
あの冬の日も、映画のワンシーンだったら良かったのに…。
さて、お気づきの方もいると思うが、今回からサブタイトルは、70年代改80年代ですよ!
1980年の冬休み、Nと学校で会えないからバイト先の喫茶店に足繁く通う私がいた。Nは、がむしゃらに働いた。貯金して家を出ることが第1目標だったから。
私は、友達や友達の母親、正月で帰省していた姉も連れて行って、Nを紹介した。
誰もが、彼の私に対する真面目な思いを信じてくれたし、誰にはばかることなく私を大事にするNを悪く言う人はいなかった。働いているときのNは、真面目で、大人で、少しおどけて、客商売が合ってたよ。
45度傾斜のサングラスを外せば、端正な顔立ち。私は彼がサングラスを外した顔が大好きだった。
今思えば、あれはポーズだったんだ。素顔は優しすぎるほど繊細で、清潔感溢れた青年。素顔を見せたくなくて、サングラスかけて虚勢を張って。痛々し過ぎる。
もしも今、17歳のNに会えたら抱きしめてあげたい。ギューっと壊れるくらい抱きしめてあげたい。
3学期に入って私たちの行動半径がグッと狭くなった。言い換えれば怠慢になっただけだが😭しかし、新たな作戦会議室となるNの部屋で、毎日将来の夢を語るという、全く純粋な高校生だった👍
毎日手を繋いで仲良く正門から帰る二人の姿は、職員室の窓から真っ直ぐ見える。教師たちは何を思って見ていたのか…
Nの自宅は学校から10分の距離にある。土地開発が盛んな時代で、ここも閑静な住宅街だった。
玄関入って廊下の先のキッチンには戦闘状態の継母。私たちは継母を回避し2階の部屋へと階段を登る。
継母の配下にいるのが6歳の弟。彼はまるで二重スパイのごとく😁Nの部屋と継母の陣地をちょこちょこと行ったり来たり。幼い彼にとってNはたくましい兄貴だったわけで、いじめられたら颯爽と助けてくれるカッコいい兄貴だったわけよ。
大好きだったのね。
ところがあの継母が、兄弟の絆を断ち切ろうと躍起になって…。
いったい何?この家族…
Nはこの冷戦状態を一人で戦ってきたが、今や私という強力な戦力を得て、俄然張り切っていた。
あの当時、夕方4時頃、トムとジェリーの再放送をやってて、コタツに入って並んでテレビを見るのが日課になった。
Nはタバコに火を点けて、煙をゆっくり吐きながら、
N「大学には絶対行けよ」
私「二部だったら働けるよね」
N「普通に行けよ。俺が帰ってきた時、お前が居なかったら淋しいだろうよ」
私「だよね😊でもさ、入学金とか授業料が高いじゃん」
N「いいんだよ、そんな心配しなくて。俺がこれから2年間バイトするだろ、お前が卒業の頃にはまーまー貯まってんだろ」
私「だけど、それでも東京で暮らすの大変だよ」
N「貧乏でもいいじゃねぇか。一緒に居るだけで」
私「そっか」
しかし、
そんな純粋な計画が、音を立てて崩れる日が来た。
2月半ば、相変わらずトムとジェリーを見ながら、タバコを吸ってゲラゲラ笑う私たち。
突然、誰かが階段を登ってくるけたたましい足音。
Nは、急いでタバコの火を消し、窓を開けて煙を出そうと必死になる。
バタン!
ドアを開けて仁王立ちになっているのは、生徒指導のH先生だった。
N「何だよ、いきなり他人の部屋に入って…」
H先生は部屋に入るなり、押し入れの襖を乱暴に開ける。ガサガサと物を引っ張り出し、タバコの箱を放り投げる。
カバンを逆さにして中身をぶっちゃけ、ライターやナイフを没収する。
私は唖然として、声も出なかった。まるで刑事がヤクザの部屋のガサ入れをしてるよう。
N「勘弁しろよ……」
H「お前、わかってんだろうな。これで終わりだぞ」
ドタバタと階段を降りるH先生。
Nは、諦めたような複雑な表情で私を見た。
N「ちょっと待ってろ。話つけてくっから」
Nは、そっと私にキスをして、部屋から出ていった。
何? アイツ。
いったい何の恨みがあって彼を目の敵にしてるの?
教師の目じゃない。
何? なんなのよ!
階下でNとH先生が何を話していたのか、今もわからない。
ただ、Nを信じて私はジッと待っていた。
テレビの中のトムとジェリーの大騒ぎが虚しくて、
涙が溢れて、
心が引き裂かれて、
息もできないほど泣いていた…。
To be continued…